取扱い天然石解説
ラブラドライト(ホワイト)
- 鉱物名
- 灰長石(アノーサイト)
- 宝石名
- ホワイトラブラドライト、レインボームーンストーン、ブルームーンストーン等
- 主要産地
- 当店の扱っているものは主にスリランカ産および南インド産
ホワイトラブラドライト・レインボームーンストーン・ロイヤルブルームーンストーン
宝石名の由来
亜透明なボディに光学現象が見られる非常に美しいこの宝石。
その高貴さと神秘性は格別ながら解説に困難を極める石のひとつと言えるでしょう。
ブラックムーンストーンの解説でも記載の通りですが「ムーンストーン」という鉱物種は存在しません。
通称「ムーンストーン」と長石(フェルスファー)の関係はブラックムーンストーンの項で記載したのでここでは割愛させて下さい。
早速ホワイトラブラドライトをみてゆきます。
私個人的な感覚かもしれませんが、一昔前までは「ホワイトラブラドライト」という呼称よりも「レインボームーンストーン」という宝石名のほうが一般的だったように思えます。
しかしこの「レインボームーンストーン」という呼称が間違いだらけ(必ずしも宝石名として間違っているわけでは無いのですが)
まず、鉱物種として旧分類ではラブラドライトに属するこの石、ムーンストーンと呼称するのは正しいのか。
日独宝石研究所発光のGem Informatin第39・40合併号に「ムーンストーンとは宝石名であり、光を浴びると独特な青白い反射が見られるシラー効果という特徴を持った変種である」との記載がある。
つまりムーンストーンとは長石族の中でも特殊な青白い光の揺らめきを見せるものの呼称である、と。
もともとムーンストーンという呼称が生まれたのは1600年代という研究があり、その際に最初にムーンストーンと呼ばれた石は鉱物としてはオーソクレースだったようです。
オーソクレースにアルバイト(曹長石)がラメラ構造(ミルクレープのような層状構造)で重なり合うことにより、2種の間に皮膜のような境界線が生じる。
その境界線に光が反射してボワッとしたブルーの光を発現する、というのがシラー効果です。
しかしそのオーソクレース/アルバイトのムーンストーンと非常によく似た「ムーンストーン」がもう一つあります。
ペリステライト(宝石名)です。
こちらも同じ長石族でラメラ構造を持つのですが、そのラメラ構造がアルバイトとオリゴクレースで成り立っています。
アルバイトが主成分となるためアルバイトムーンストーンとも呼ばれます。
一般的にはこちらのアルバイトムーンストーン(ペリステライト)のほうがオーソクレースムーンストーンよりも強い青を発現するので、ペリステライトを「ロイヤルブルームーンストーン」と呼ぶことがあります。
※これがまたホワイトラブラドライトのブルーの強いものと呼称が被るので厄介。
ではここでホワイトラブラドライトに立ち返って、こちらをレインボームーンストーンと呼ぶのは正しいのでしょうか。私見ではございますが非常にグレーゾーンです。
まずムーンストーンは長石族の中でも特定の光学効果(青白いシラー現象)が見られるものと定義されます。
ホワイトラブラドライトの中には多色(レインボーというだけに)が見られるものがほとんどですが、中にはブルー系のシラー単色なこともあります。
そうなると長石族に属しブルーのシラーが見られる、という意味では「ムーンストーン」という流通名も間違いだとは言い切れなくなってしまいます。
ただしおかしのは「レインボー」という冠が付くことです。
そもそものムーンストーンとは青い光であることが大前提なのでムーンストーンと呼ぶからには青でないといけないのです。
ムーンストーンがレインボーならばその由来からかけ離れてしまうのでは、という懸念がございます。 ※もちろん今はその大前提も崩れているのですが。
もう一つの問題は「ロイヤルブルームーンストーン」という通称です。
こちらも困ったもので上記に既出の通り、もともとペリステライトをオーソクレースムーンストーンと差別するために付けられた宝石名が「ロイヤルブルームーンストーン」です。
ですが、どちらかというと市場でもラブラドライトの中でも際立って透明で強いブルーの光学効果を見せるものをロイヤルブルームーンストーンと呼称するケースが多いように思います。
これはフォルスネーム(誤称)なのかもしれませんが、圧倒的にこちらに認知がある以上はラブラドライトをロイヤルブルームーンストーンと呼ばざるを得ないのも現状かもしれません(そうでないと売れませんから)
シャンバラストーンズではひとまずカテゴリ分けとして「ラブラドライト(ホワイト)」としておきます。
これは天然石名を50音順で探すときにラブラドライトが「ラ」でまとまって表示される方が探しやすいからです。そして商品名としてはホワイトラブラドライトで良いのかな、と思っております。
宝石名の表記には(本来は誤称な部分もあるのですが)一般認知の高い「レインボームーンストーン」と「ロイヤルブルームーンストーン」も表記することをお許し下さい。
ホワイトラブラドライトの解説
上記の宝石名解説で大まかなことは記載してしまいました。
ここではちょっと面白い小話でも記載したいと思います。
ホワイトラブラドライトは比較的最近から目にする呼称です。
先日ホリミネラロジーさんでひとつのサンプルを同定しました(※1)
結果は当然…鉱物分類上「アノーサイト(灰長石)」になります。
Na(ナトリウム)とCa(カルシウム)のモル比率から6分割する旧分類では「ラブラドライト」に最も近い値が出ました。
余談ですが曹長石の「曹」はナトリウム、灰長石の「灰」はカルシウムです。
そしてこのホワイトラブラドライトですが、どうしてこのような美しい光学現象が起こるのでしょうか。
ラブラドライトも基本的にはミルクレープ状の薄層構造を持ちます。
アルバイトとアノーサイトが薄層状に折り重なっているわけですが、その間にマグネタイトやヘマタイトといった微細な不純物が入り込みます。
その微細な不純物と層状の反射が同時多発的に起こる事で他では見られないような多色(虹色)の光学効果が生まれるとのこと。
他の長石類には見られないこのような多色(虹色)光学現象はラブラドレッセンスとも呼ばれます。
ホワイトラブラドライトに限っては多色といえども確認できる色はほとんどの場合が水色、青、薄緑、やや黄色?程度では無いでしょうか。
本家?カナダや近年産出の多いマダガスカル産の黒みを帯びたラブラドライトほど多色・暖色に富んでいるわけではないように思えます。これは不純物の違いうや含有量からではないかと推測されます。
そしてホワイトラブラドライトの中でも白濁しているものや表層構造が肉眼でも確認できるものほど多色が見られるように思います。
反対に透明度が上がるほど光学現象は「青」単色に近づいてゆき、稀に見る宝石質の真透明なものはまさしく高貴な「ロイヤルブルー」と呼ぶに相応しいブルーのみのシラーが見られます。
では何故透明度が上がるほど青単色になるのか。
あくまでも個人の見解なのですが、これは空が青いのと同じ原理ではないのでしょうか。
空が青く見えるのは青が1番波長が短い、つまり空中に漂う塵や埃で乱反射を起こしやすいからですよね。
これは皆様、中学校だか高校だかで習った事かと思います。
ホワイトラブラドライトに応用しますと、真透明なラブラドライトも我々の肉眼では無色透明に見えても、微細な表層や不純物があるわけです。
微細な障害(干渉)でも波長の短い青だけは乱反射を起し、色として発現するということでしょう(波長の長い色は干渉物をすり抜けてしまう = 透明に見える)
そして白靄や薄層構造が肉眼でも見えるものほど多色が確認できるのはその反対。
青よりも波長の長い色(この場合は水色や緑、黄色など)も肉眼で見えるほどの大きな干渉物をすり抜けられずに乱反射を起し、結果として多色が発現する。
いかがでしょうか。
こちらの見解は確かなものではございませんので絶対に転用しないで下さい(青の発現の原因が間違いだった場合間違った知識を広めてしまうことになりますので)
透明度が高いホワイトラブラドライトほど青が強いことに興味を持ち、鉱物とは関係なく色学を調べて得た考察です。
ホワイトラブラドライトの光学効果(色の違い?)に関して資料を探したのですが見つかりませんでした。
どちら様か信頼性の高い専門書や論文をお持ちでしたら教えて下さい。
※1あくまでもひとつのサンプルを同定しただけなので、それがすべての個体に反映されるというわけではございません。
長石族の各鉱物は非常に複雑で境界線上にあるものも多いです。
全く同じに見えるカボションでも同じ解析結果が得られるわけでは無いということをご了承下さい。
※また上記写真右の三角形相関図は日独宝石研究所発行のGem Information第37/38合併号(2008年発行)2ページ目より抜粋致しました。
写真左は当ウェブショップで販売している商品、中央は私物の最上級「ロイヤルブルームーンストーン」です。
ホワイトラブラドライトの真贋?(天然と人工処理)
今のところ人造品や人工処理品、偽物に関してはあまり聞きません。
ホワイトラブラドライトの一大産地であるインドのお土産物屋(ネパールでも)ではかつてリングやカボションペンダントの裏側に
青い台紙を貼ってその上にラブラドライトを乗せて販売しているお店が多々ありました。
クラシカルなタビュレット(貼り合わせ)加工とでもいいましょうか。
つまりかなりブルーの濃い(というよりもブルーそのもの)に見える「ブルームーンストーン」として販売されていたわけですが、あまりに偽装が陳腐ですよね。
今は全くといって良いほどに「台紙貼り」は見られません。
なので天然石・鉱物としての真贋や加工・処理よりも注意したいのは上記の通りの誤称地獄でしょう。
もしもムーンストーン、レインボームーンストーン、ブルームーンストーン、ロイヤルブルームーンストーンなるものを購入する場合は、それが鉱物種としてどこに属するものなのかを明らかにしているところから買うことでしょうか。
すでにご購入済みの物でしたらさしたる機関で鉱物種の同定や鑑別を行ってみれば良いでしょう。
ホワイトラブラドライトのグレード評価基準
最大の評価基準は透明度です。ホワイトラブラドライトの9割は白靄が見られるといっても過言でないほどにその多くは雲のような靄がみられたり肉眼で確認できるほどの薄層構造があります。
ホワイトラブラドライトはインド・スリランカにおいて比較的安定した産出量があります。
その為白濁したようなグレードの低い物は数百円単位で取引されますが、
白靄と肉眼で見える層状構造が少なくなるにつれ段階的に価値(グレード)は上昇してゆき、
1000個に1つしか無いといわれるほどの真透明の最上級品となれば、カラット単位でウン万円という高値で売買されます。
そのようなものは一雫の水滴のように済み渡り、光と反射するとボワッと浮かび上がる「ロイヤルブルー」は息を飲むほどです。
しかしそのような質は本当に稀で、ほとんどのものはよく見ると白濁や薄層が確認できます。
また、ラブラドライトたらしめる?ラブラドレッセンス(多色の発現)も評価基準のひとつのファクターです。
透明度が上がるほど青の単色になるのですが、白靄や薄層が増えるほど多色性が増します。
つまり「虹」色の発現するものほど白濁するので宝石としての価値は下がり、透明度が増すほどラブラドライトたらしめる虹はなくなります。
虹はその「見え方の良さ」である程度価値が変動しますが、大きな判断基準ではありません。
価格(グレード)としては白靄の中の大きな虹よりも透明度の高いロイヤルブルーであることは間違いないでしょう。
本質はラブラドライトであるのにラブラドレッセンス(多色の発現)が減少するにつれ価値が上昇するというのも皮肉かもしれませんね。
また、統計的データはないのですがあくまでも仕入れ実務の経験として、インドよりもスリランカのほうが「ロイヤルブルームーンストーン」
(ここでは最上級のホワイトラブラドライトという意味で)の産出が多いように思います。
ホワイトラブラドライト着用・取扱いの注意点
アノーサイトはモース硬度6、実用するには問題ない硬度だと言えます。
他の天然石同様、落下等の大きな衝撃や過度の酸性成分・油の付着には気を付けなければなりませんが着用に際して過剰に気にする必要はないでしょう。
但し層状構造の関係上、クラックが露出している部分などは脆いと思われますので若干の注意が必要です。